妊娠・出産への影響
関節リウマチの妊娠への影響
関節リウマチの活動性が高い患者さんでは、妊娠しづらく、早産や低出生体重児のリスクが高まる可能性があります
関節リウマチ患者さんが妊娠・出産するためには、「病気が長い間、よい状態であること」がとても重要です。具体的には、10ヵ月以上病状が安定し、今後も悪化することなく妊娠期間を無事に過ごせることが予測できる状態と考えられています。
Brouwer J, et al. Ann Rheum Dis 2015; 74(10): 1836‒1841.
中川夏子 整形外科看護 2016; 21(9): 53-57.
橋本博史監修 改訂新版 図解 膠原病がよくわかる最新治療と正しい知識 2018; 日東書院, 169.
妊娠が関節リウマチへ与える影響
妊娠中は関節リウマチの病状が軽快することが多いですが、一部の患者さんでは悪化する可能性もあります
関節リウマチでは、炎症を引き起こす「炎症性サイトカイン」が過剰に産生されますが、妊娠するとホルモンの影響により炎症を抑える「抗炎症性サイトカイン」の産生が促されるため、関節リウマチの症状が改善すると考えられています。
一方、妊娠中は体重が増えることにより股関節や膝の関節などに負担がかかり、浮腫や関節痛を生じやすくなるといわれています。体重増加を最小限に抑え、筋力アップトレーニングを続けることで、これらの症状が軽減できると考えられています。
中川夏子 整形外科看護 2016; 21(9): 53-57.
妊娠中における病状の変化
妊娠中にリウマチ性疾患の状態はどのように変化しましたか?
調査概要
アジア太平洋地域(日本、オーストラリア、香港、台湾)において、過去2~5年の間に妊娠経験のある18~45歳の、中等症~重症のリウマチ性疾患(関節リウマチ、乾癬性関節炎、体軸性脊椎関節炎/強直性脊椎炎)を有する女性患者210人を対象に疾患の治療や妊娠についてオンライン調査を実施した。
Tanaka Y, et al. Ann Rheum Dis 2019; 78(S2):
A1155–1156.より作成
産後における関節リウマチの症状の変化
一般的には、妊娠中に改善した症状が産後3~4ヵ月以内に再び悪化するといわれています
育児は心身の負担が大きく、抱っこや沐浴、授乳などの動作で関節に負担がかかります。関節リウマチが悪化したときは無理をせず、家族や産後ヘルパーなどの協力を得ながら十分な休息をとりましょう。
また、産後は育児優先になりがちですが、ご自身の受診が後回しにならないように定期的に通院しましょう。
中川夏子 整形外科看護 2016; 21(9): 53-57.
岡本紀代香 整形外科看護 2020; 25(9): 890-893.
プレコンセプションケア
プレコンセプションケアとは「妊娠前の女性とカップルに医学的・行動学的・社会的な保健介入を行うこと」と世界保健機関(WHO)で定義されています
プレコンセプションケアは、
・女性やカップルがより健康になること
・元気な赤ちゃんを授かるチャンスを増やすこと
・女性や将来の家族がより健康な生活を送れること
を目指す取り組みです。
プレコンセプションケアは妊娠を計画している女性だけでなく、すべての女性・カップルが対象になります。健康な生活習慣を身につけることは、単に健康を維持するだけでなく、妊娠経過の改善が期待でき、より素敵な人生にもつながります。
WHO. Preconception care: Maximizing the gains for maternal and child health. Policy brief. Geneva: WHO; 2013
https://www.who.int/maternal_child_adolescent/documents/preconception_care_policy_brief.pdf より作成
プレコンセプションケア・チェックにより、妊娠前から自分のからだ・心の状態をよく知っておきましょう
妊娠するとからだに大きな負担がかかります。自分のからだや心の状態をよく知り、少しでも良い状態にしておくことで、将来の妊娠・出産を乗り切ることができます。
以下のチェック項目を確認し、できることから取り組みましょう。
プレコンセプションケア・チェックシート
医師と話しておくべきこと
関節リウマチ患者さんの安産のためには、妊娠前から医師とよく話し合い、治療法を選択する「SDM(Shared decision making)」の考え方が非常に重要です
SDMは、日本語では「協働的意思決定」と訳され、「治療法を選択する際に、患者さんと医師が情報を共有しながら、協力して治療に関する方針を決定すること」を意味します。関節リウマチ患者さんの妊娠・出産においては、このSDMの考え方に基づいて治療を決定することが大切です。
まず、妊娠するまでに、今の関節リウマチの状態で妊娠してもよいかを医師へ相談しておく必要があります。妊娠を希望する場合は、その旨を医師に伝え、今後の治療法について話し合ってみましょう。
薬剤が妊娠や赤ちゃんへ与える影響については、各都道府県に設置されている妊娠と薬情報センターでも相談することができます。詳しくは、ホームページをご覧ください。
Q 関節リウマチの治療薬は、赤ちゃんに影響を与えますか?
A 治療薬のなかには、赤ちゃんへの影響があり妊娠前から休薬が必要なものもあります
一部の関節リウマチの治療薬は、流産の危険性を高めたり、おなかの赤ちゃんの発育に影響を与えたりするおそれがあり、妊娠前の休薬・中止が必要なものがあります。一方で、ステロイドや一部の生物学的製剤では妊娠中に使用できるものもあります。
医師は、患者さんの状態と赤ちゃんへの影響を考えながら治療薬の中止・変更を決定します。赤ちゃんへの影響が不安になっても、自己判断で治療薬を中断せず、必ず医師や看護師にご相談ください。
岡本紀代香 整形外科看護 2020; 25(9): 890-893.
厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業): 「関節リウマチ(RA)や炎症性腸疾患(IBD)
罹患女性患者の妊娠、出産を考えた治療指針の作成」 研究班: 全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ(RA)、若年性特発性関節炎(JIA)や炎症性腸疾患(IBD)罹患女性患者の妊娠、出産を考えた治療指針, 平成30年(2018年)3月
https://ra-ibd-sle-pregnancy.org/data/sisin201803.pdf
Q 関節リウマチの治療薬は、授乳に影響を与えますか?
A 母乳育児ができるかどうかは服用する薬の種類と量で異なるため、医師に相談しましょう
授乳をしないように勧められている薬剤もありますが、ステロイド(一定用量以下)や生物学的製剤など、授乳中も使用できる治療薬はあります。
母乳育児を希望する場合は、医師・看護師にご相談ください。
金子佳代子 リウマチ科 2020; 64(1): 76-81.
厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業): 「関節リウマチ(RA)や炎症性腸疾患(IBD)
罹患女性患者の妊娠、出産を考えた治療指針の作成」 研究班: 全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ(RA)、若年性特発性関節炎(JIA)や炎症性腸疾患(IBD)罹患女性患者の妊娠、出産を考えた治療指針, 平成30年(2018年)3月
https://ra-ibd-sle-pregnancy.org/data/sisin201803.pdf
Q 妊娠を希望する場合、相談先はリウマチ科?産婦人科?
A リウマチ科の主治医と、産婦人科の医師の両方からサポートを受けられる環境が理想です
関節リウマチ患者さんにとって、妊娠はすべて「計画妊娠」であることが望まれます。また、妊娠期間~産後はリウマチ科と産婦人科の両方を定期受診して、関節リウマチの状態はリウマチ科に、赤ちゃんの発育や妊娠経過は産婦人科にチェックしてもらう必要があります。
妊娠を希望する際に、まず相談するのはリウマチ科の主治医である場合が多いと考えられますが、リウマチ科と産婦人科の連携のもと、どちらからもサポートを受けられるような施設を選ぶことが大切です。
橋本博史監修 改訂新版 図解 膠原病がよくわかる最新治療と正しい知識 2018; 日東書院, 170-171.
JP-CZ-2400023