関節リウマチと診断されたら

産婦人科で確認すること

Q5 妊娠や出産で関節リウマチは悪化しますか?また、関節リウマチは遺伝するのでしょうか?

  • 妊娠中は関節リウマチが改善する傾向がありますが、出産後は悪化する可能性があります。
  • 関節リウマチは遺伝要素よりも、環境などの影響が大きいといわれています。

妊娠・出産が関節リウマチに及ぼす影響

妊娠によって関節リウマチの症状が悪化することは少なく、逆に妊娠中は関節リウマチの病状が軽快することが多いことがわかっています。

一方、妊娠中は体重が増えることにより股関節や膝の関節などに負担がかかりやすくなるため、筋力を落とさないようなトレーニングを続けることで、これらの症状が軽減できると考えられています。

産後については、妊娠中に改善した症状が産後3~4ヵ月以内に再び悪化する傾向がみられます。産後は育児による関節への負担も考えられますので、それにあわせた適切な関節リウマチ治療を行います。

関節リウマチの遺伝について

関節リウマチの発症には遺伝的要因もある程度関係していると考えられています。
しかし、遺伝的要因よりも、喫煙などの生活習慣や感染症(ウイルス感染や歯周病など)といったさまざまな要因の影響のほうが大きいともいわれていますので、必ずしもお子さんが関節リウマチを発症するということではありません1)。喫煙や感染症などの環境因子には、継続して注意していくことが大切です。

1)
メディカルスタッフのためのライフステージに応じた関節リウマチ患者支援ガイド

Q3 関節リウマチの薬物療法はどのように進めるのでしょうか?

  • 関節リウマチの”疾患活動性”の寛解を目指します。

薬物療法の進め方

関節リウマチの治療は、薬物療法を中心に、病状の程度の指標である”疾患活動性”を改善し、寛解を達成することが目標になります。
治療薬としては、主に、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、抗リウマチ薬(DMARDs)、生物学的製剤(TNFα阻害薬、IL-6阻害薬など)、ステロイド(副腎皮質ホルモン)、その他(JAK阻害剤など)に分類されます。その中で、治療の中心となるのは、抗リウマチ薬のうちの免疫抑制作用を持つお薬です。

関節リウマチは発症後早期から関節破壊が起こるため、速やかに治療を開始することが重要です。これらのお薬を用いて、寛解または関節炎がコントロールされた状態(低疾患活動性)を目指します1)。また、治療薬の効果がきちんと表れているかどうか、少なくとも3ヵ月ごとに確認し、治療薬の見直しを行います。このように、目標達成に向けた治療は“Treat to Target”(T2T)といって、近年の関節リウマチ治療の重要な考え方になっています。

関節リウマチが妊娠に及ぼす影響については、最近の薬物療法の進歩、特に生物学的製剤の登場によって、疾患活動性が寛解状態であれば、関節リウマチ患者さんの妊娠経過はほぼ正常であることが示されています2,3)。リウマチ治療医と産婦人科医が協力して患者さんをサポートすることで、関節リウマチ患者さんでもそうでない方と同程度に妊娠を得られることがわかっていますので4)、まずは関節リウマチの治療に集中しましょう。治療によって疾患活動性が安定したら、妊娠に向けて妊娠中使用が容認される薬剤に変更していきます。また妊娠を急ぐ場合は、早期に切り替えることもあります。

(⇒Q8妊娠時に使用可能な治療薬への切り替え 参照)

ステロイドは関節の腫れや痛みを和らげる効果が高いため、活動性の高いリウマチに対して、抗リウマチ薬の補助として用いられます。ただし、ステロイドを高用量で長期間服用していると合併症などが発生しやすくなるため、抗リウマチ薬が効き始めたら医師と相談して減量を検討します。

1)
「関節リウマチ診療ガイドライン 2020」(一般社団法人 日本リウマチ学会 / 編)診断と治療社,2021
2)
de Man YA et al: Arthritis Rheum 2009;11:3196-3206
3)
Bharti B et al: J Rheum 2015;42:1376-1382
4)
Bortoluzzi A et al:Arthritis Care Res 2021;73:166-172

Q6 産婦人科では何を話し合えばよいのでしょうか?

  • 妊娠や出産の希望があるか、自分に適した避妊方法は何か、などをご相談ください。

家族計画の相談

まずは妊娠・出産の希望があるか、あるいは現時点ではその希望はないかなどを相談してください。
また、ご自身の年齢も家族計画に影響します。一般に女性の年齢が40歳を超えると「妊娠する力」が大幅に低下しますので、関節リウマチ患者さんの場合でも、妊娠を希望する場合は、妊活をスタートするタイミングについても話し合いましょう(図1)。

一方、今のところ妊娠を希望していない方は、将来子どもを持ちたいか、将来にわたって子どもを持たないことを考えているかを伝えてください。また、その際パートナーの状況や、妊娠する可能性があるかどうかも産婦人科医にお伝えください。

図1:生殖補助医療における年齢と妊娠率の関係

生殖補助医療における妊娠の確率は35歳から下降し、40歳台では半分以下に低下します。したがって、年齢を踏まえたライフプランを考えることが大切です。

図1:生殖補助医療における年齢と妊娠率の関係

日本産婦人科学会 ARTデータブック 2020
https://www.jsog.or.jp/modules/committee/index.php?content_id=12

避妊についての相談

疾患活動性が高く、関節リウマチの治療を優先しなければならない場合や、今のところ妊娠を希望していない場合は、避妊を前提にして治療薬を選択します。
また、すぐに妊娠を希望していない患者さんも、避妊がとても大切です。

確実な避妊をするためには、自分にあった避妊方法を見つけましょう。経口避妊薬(OC)や子宮内避妊器具(IUD)は、可逆的避妊法のなかで比較的効果が高く、しかも安全性に優れた方法です。一方でコンドームはOC、IUDと比較すると避妊効果が低いため、関節リウマチ患者さんでは、より確実な経口避妊薬などが推奨されています(図2)。コンドームは、避妊具としての効果は高くありませんが、性感染症を予防するための”デュアルプロテクション”として使用が推奨されます。特に近年、梅毒への感染が増加していますので、コンドーム着用による予防が大切です。

また、きちんとした避妊が行われていない状態(コンドームが破れるなど)で性行為を行ってしまった場合は、産婦人科で処方される緊急避妊薬(モーニングアフターピルやアフターピル)を性交後72時間以内に服用すれば妊娠を防げる可能性が高まりますので、その点も産婦人科医と話し合ってください。

図2:主な避妊方法とその有効性

図2:主な避妊方法とその有効性 図2:主な避妊方法とその有効性
*
100 人の女性が各避妊方法を1年間行ったにもかかわらず,予期せぬ妊娠を経験する頻度。

金子佳代子:Hospitalist 2021;9:115-131より改変

Q7 産婦人科ではどのような検査・確認を行うのでしょうか?

  • 過去の妊活歴・妊娠歴の確認に加えて、子宮頸がんなどの検査を行います(表)。

妊活・妊娠経験

妊活を行った経験があるか、妊娠・出産の経験があるかを確認します。また、過去の妊娠において、妊娠合併症や流産の経験があるかも次の妊娠に影響する可能性があるので、その点も確認していきます。

子宮頸がんの検査

日本では、子宮頸がんのワクチン(HPVワクチン)の接種が一時中止されたことから、他の国よりも子宮頸がんのリスクが高い状態です1, 2)。そのため、2年間に1回の頻度で子宮頸がんの検査が推奨されています。市町村の無料クーポン等もありますので、産婦人科を受診した際には、妊娠の希望の有無に限らず、医師と相談しましょう。
なお、世界的に子宮頸がんワクチンの有効性や安全性が高まったことから、2022年4月から日本でも改めてワクチンの接種が推奨されています。ワクチンの接種についても、ぜひ検討ください。1997年4月2日~2006年4月1日生まれの女性はキャッチアップ接種の対象となり、公費補助があります(2023年3月現在)。

感染症の確認と健康の管理の改善

関節リウマチの治療では、免疫を抑制するお薬を服用しますので、感染症には気をつけましょう。風疹の罹患歴やワクチン接種歴、抗体価等を病院で確認します。抗体価が低い場合は、パートナーも含めて風疹ワクチン接種を検討してください。また、性感染症についても不安な症状があれば、医師に相談してください。近年増加している梅毒感染も含めた性感染症の予防には、コンドームの着用が大切です。なお、コンドームは、避妊法としての効果は高くはありませんので、避妊を行う場合は、経口避妊薬などとコンドームとの併用が必要になります。

計画外の妊娠について

日本では、関節リウマチ患者さんでも、十分な知識が浸透していないために、予定外の妊娠をしてしまうケースが半数以上に達することがわかっています3)。その場合、服用しているお薬を確認して、胎児へのリスクがあるかどうかを産婦人科医とリウマチ治療医が協力してお話ししていきます。

なお、妊娠中は使用禁忌であるお薬を服用していた場合も、妊娠初期であれば影響が少ない場合もありますので4)、あわてて自己判断せず、服用を中止したうえで、すぐに医師にご相談ください。

判断に迷う場合は、各都道府県に設置されている妊娠と薬情報センターで、専門の医師・薬剤師が相談を受けていますので、悩まずにご連絡をしてください。

生活習慣の改善

妊活前には、安心して妊娠できる状態かどうかを確認していきます。
運動習慣や喫煙・飲酒を控えること、今でしたらコロナウィルスワクチン接種状況などについても確認して、安全な妊娠を迎えられるための健康管理についてもお伝えします。

1)
Yagi A et al: Lancet Reg Health West Pac 2021;18:100327
2)
Simms KT et al: Lancet Public Health 2020; 5:e223-e234
3)
Tsuda S, et al: Mod Rheumatol 2020;30:852-61
4)
Weber-Schoendorfer C et al: Arthritis. Rheum 2014; 65:1101-1110

表:プレコンセプションケア・チェックシート(関節リウマチ治療開始時)

  • 妊娠について主治医,家族と相談する
    RAの状態が妊娠可能な状態であるか確認。妊娠に向けた薬剤調整を行う
  • RAの治療内容,薬剤を把握しておく
  • 主治医から妊娠許可が出ていない場合は確実な避妊を行う避妊方法を確認する
  • かかりつけの産婦人科医を見つける
  • 子宮がん検診、乳がん検診を定期的に受診する
  • 風疹の既往歴や予防接種歴を確認する
  • 感染症に注意する:風疹・B型肝炎・性感染症(梅毒など)
  • 生活習慣の改善
  • 適正体重(BMI:18.5〜24 程度)を保つ
  • バランスのとれた食生活,運動習慣を心がける
  • 禁煙する
  • アルコールは適量を心がけ、妊娠成立後は中止する
  • 食事やサプリメントから葉酸を積極的に摂取する
  • 歯のケア(歯周病など)を行う
  • ストレスをためない

メディカルスタッフのためのライフステージに応じた関節リウマチ患者支援ガイド より改変
https://www.ryumachi-jp.com/medical-staff/life-stage-guide/

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